久しぶりに新松戸ファイヤーバードでライブをするために松戸行きの新京成線に乗った。鎌ヶ谷大仏駅を抜けると鎌ヶ谷市に入る。くねくねと蛇行する線路は鎌ヶ谷市役所を半周するほどだ。くぬぎ山駅を過ぎた辺りだろうか、目の前にかなり目立つ格好の男性がいる。歳の頃なら30半ば、全身黒ずくめの服、大きめのクロスのチャーム、太めのワレットチェーン、ブレスレットを身につけている。バリバリのロックスタイルである。しかし、どこかが残念なのだ。では、どこが残念なのか頭のてっぺんから検証しよう。
まず、顔はぱっとしない。渡る世間の幸楽で真面目に働いてそうだ。そして、その被っているベースボールキャップが悪い。なぜにステューシーのキャップなのだ。サーフブランドだろ。次はシャツ。黒いボタンダウンの半袖シャツであるが、少し安っぽい。ユニクロだろう。だが、前のボタンは解放してある。そこは、ロックだ。でも、Tシャツの絵がなんだか分からない。天使の羽みたいな、渦巻きみたいな、フリーハンドの線が描いてある。その線の上に小さく文字が書いてある。
一番の問題はブラックデニムの色と太さである。ブラックデニムは新品で裏地が白いタイプだ。これはガンガンに履き込むか、ビンテージ仕上げをチョイスしないとカッコ悪い。彼のは新品のまんま一度も洗わずに履いていて、太さが中途半端で普通のストレートなのだ。ワレットチェーンでジャラジャラしてんのに、ジーンズは勝手にお母さんがイオンで買っちゃった感が漂っている。
靴は靴流通センターに売ってるようなレッドウイングでもない、Dr.マーチンでもないわけ分からんブーツだ。
そして、ジャラジャラとしたアクセサリーは全てクロムハーツとかではなく、ジーンズメイトのレジ横のアクセサリーコーナーに置いてある安物のそれだった。
中二病か?
いや、30を過ぎている。
そして、何かを主張している。
彼が発するメッセージを読み取るために、僕は空港の運輸保安局員のように上から下までボディスキャンした。
あった!
彼からの無言のメッセージを読み取った。
黒いTシャツの天使の羽みたいな、渦巻きみたいな、フリーハンドの線の上の小さい文字にもう一度、目を凝らす。
Kyoske Himro と書いてあった。
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鎌ヶ谷辺りの狂介
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