まだ忙しい。
GWから始まったっけ。相変わらず2時くらいまで仕事してる。
ちょ、セミリタイアしたんですけどー。
そんでも呑みのお誘いは受けるってんで、夕方から家を飛び出した。
16時30分。まだ明るい船橋の改札口で、巨悪を追うジャーナリストの石和氏と待ち合わせた。巨悪の石和氏は先に船橋に潜伏していたのか、改札口を見て待っている俺の背後から突如現れた。
俺の背後を取るとは、ゴルゴ13ならあっぱれだが、早めに来たのならメールをくれれば、お互いに早くから呑めるではないか。
などと思いながらも2人で黙々と船橋飲み屋のメインストリートを歩く。
俺は心なしか、スキップしている。
久しぶりにお外で酒が呑めるのだ。浮き足立たないはずがない。
え?先日ライブハウスで浴びるほど呑んだろって?あれはあれだよ。ライブハウスで呑むのともつ焼屋で呑むのとは、雰囲気が違うんだよな。やっぱり居酒屋は酒も肴も美味いしな。
珍しく席がガラガラな船橋加賀屋の暖簾をくぐり、店内左中央の席をキープ。まずまずのポジショニングだ。常に店員をキャッチできる位置。最近の居酒屋も店員ポゼッションが大事になってきた。まぁ、ポゼッションが何かもよく分からないのだが。
先ずはビール。いつもなら男は黙ってラガーだが、今宵は一番搾りにした。そして肴は、スタミナ焼、巨悪の石和氏は珍しくカニカマの磯辺揚げなんてしゃれたもんを頼んでいた。
話しなんて特に無く、石和氏は優しいもんだから、俺の最近の仕事の入り具合を心配してくれている。君たちには分からないだろうが、登山仲間ってのは、特別な繋がりがあって、やっぱり生死を共にしているからか、本当にお互いを信頼している。登山は退屈だから山行中も山小屋での飲み時間もいっぱいしゃべるしな。
出版社のパンダ隊長も本部長というポジションにいながら、こんなチンカスみたいな俺の事をいつも気にかけてくれている。前の会社の社長が有る事無い事嘘を並べ、パンダ隊長に俺の悪口を言っても、社長の悪口はビタイチ信じず、俺を信じていてくれる。
こちとら25年も一緒に仕事して、山に登ってんだ、俺がどんな人間か、後からのこのこ現れた社長より知ってるさ。
え、どんな人間かって?
誠実一路ですよ。
まぁ、そんな感じで親身になってくれている巨悪の石和氏の話しをうんうん頷きながら、俺は目の前にあるカニカマの磯辺揚げを虎視眈々と狙っている。
巨悪の石和氏が箸をつけた瞬間に俺のシグナルがGoサインに変わる。
しかし、師は話しに夢中になっていて、これがなかなか手を付けなんだ。
やっと話しも一段落して、巨悪の石和氏がカニカマの磯辺揚げの一つを箸でつまみ上げた。
俺も早速ご相伴に預かった。もぐもぐ。うん。フェイクだが、蟹の風味がして、ふんわり柔らかい食感。なかなか美味かった。
暫くしてチャーリーブラウンに似たカメラマンの東雲さんが合流した。御母堂の介護で最近ちっとも呑みに参加してくれなんだ。先日、津田沼駅でバッタリ会った時は元気だったので安心した。久しぶりに3人で呑んだ。2人はすぐに日本酒に移行したが、俺はまだまだハイボールの2個割りを楽しんだ。
話しはこの歳になると定番の「健康について」になる。しかし、我々は食べ物屋さんではご法度なネタに突入していた。
ピロリ菌の話しから、サナダ虫、ギョウチュウなどトイレット博士顔負けの滅茶苦茶ばっちい健康の話しを展開している。
よせばいいのに俺は席から立ち上がってギョウチュウ検査のポージングまで御開帳してい た。
まぁ、船橋加賀屋は店内がうるさくて目の前の人の話しも聞き取り辛い店なので、全く問題は無いのだが。
加賀屋も飽きたので、次の店に移動することにした。このパターンだと店は「増やま」と「登運登運」に絞られる。
とりあえず、座れる「増やま」に向かう。店の引戸をガラガラと開けると店員さんが申し訳なさそうな顔をしていた。満席なのだが、もう少しで空きそうだと言う。少し外で待つことにした。
間も無く3人分の席が空く。どうやらお客さんが右に左に席を移動してくださって、3席分のスペースを作ってくれたようである。外にいたので分からないが、なんとなくそんな感じがしたのでペコペコお辞儀しながら着席した。
とりあえず、僕はボール(酎ハイ)と2人は日本酒「船中八策」。肉豆腐とか天ぷらを頼み少し落ち着いてしまったのか、巨悪の石和氏はえっちらおっちらと船を漕ぎ始めてしまった。
波動エンジン内、エネルギー注入!
いやいやいや、宇宙戦艦ヤマトじゃねーし。前回も石和氏が船を漕いだ時に店員さんに露骨に嫌な態度をされたので(そりゃそーだ)寝そうになると話しかける作戦に出た。
もちろん会話の内容なんてのは殆ど無いよう。ただの睡眠妨害である。二十歳になった石和氏のカワイイ姪っ子の話し。はたまた都知事候補者の話しとヴァラエティに富んでいるが、いかんせん思いつきの時事ネタなので注意を惹き付けられない。すぐにまた船を漕ぎだしてしまうのだ。
波動エンジン点火10秒前…
5、4、3、2、1
フライホイール接続、点火!
ヤマト発進!
じゃねーって!
ボールの2杯目を残し、ここらでお開きと相成った。
このままだと石和氏は眠りながらアーバンパークライナーで柏駅まで行ってしまうので、石和氏を地元駅で降ろして、新鎌ヶ谷駅経由でぐるりとお家に帰ってきた。